目的がない、それは逆にいいのかもしれない.
一つの事に縛られることもなく、寄り道だって出来る.
そう考えると悪くないだろう.

「―――ね?大賢者?」
眞王は、馬の背を撫でながら静かに言った.
「お前は目的があったって寄り道くらいするだろう」
冷たいこの言葉に、眞王は言い返すことが出来なかった.
「…お腹が空いたなぁ」
「そらすな」
いつもの事なのであまり気にせず、そらされた話に乗った.

「…何か食べるか?」
それを聞いた眞王は、馬から離れて嬉しそうに言った.

「スルメ〜!!!!」
朝っぱらからスルメは食べる気にならない.
むしろ食べたくない、そう悟った大賢者がぼそっと言った.
「チョコレートはどうだ?」
眞王は、突然目を見開いた.
そののち、歓喜わまった声で叫んだ

「食べる!!!!」
スルメよりいいだろう.大賢者がほっとしたように思えた.

「ならば早速買いに行こう」

妙に急ぐ大賢者を見て、
「お前、もしかしてチョコレート好きなの?」

大賢者は赤面した.

「オレもだよ、大賢者」
笑いながら、そう言った.

「あ、ついでに旅の分も買おう!旅にチョコレートはひちゅじゅひんだ!」

堂々と言う眞王に、大賢者は大笑いした.
もっとも、心の中で、だが.

「なんで顔がひきつってるんだ?」
わざとらしく咳き込んでから、

「必需品、だろう?」と目をそらした.

笑っているところを見られてはいけない、と思ったからだ.

眞王は静かになった.
「気にするな、誰にでもそういう事がある」
まだ静かだったが、ぶつぶつと小さな声が聞こえてきた.

「ひちじ…ひじゅち……ん?」
「必需品」わざと早口で言った.
このへんが腹黒い.

「む〜、ひつじゅひん!」

言えた.眞王は、わ〜い、と声をあげて喜んでいる.
そこに、大賢者が冷たい言葉をふらした.

「もう一度言ってみろ」
今度は自信満々に、大きな声で言った.

「ひちゅじゅひん!」だが、間違っていた.
しかも最初と同じ間違いを.大賢者は鼻で笑った.
「………」
眞王の足に、水が落ちたのが見えた.
眞王はうつむいている.

「羊の馬鹿…」

「羊は関係ないだろう」

大賢者は、焦る事なく、眞王の肩を抱いた.

「もしかしてぇー」
奇怪な言葉にも動じず、

「これくらいの事でなくな」

そう言って、眞王に優しく微笑んだ.

「…うん」


もしかしたら眞王は、たまにしか見せる事のない大賢者の笑顔が見たくて、
こんなことをするのかもしれない.
そして、大賢者はそれを判っていて笑顔を見せているのかもしれない.
お前にしては上出来の演技だ、と.

どちらにしても、大賢者のほうが一枚上手だった.




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