「―-で?」

「でって……何がだ」

「だか、らっ」

歩幅の違いを速度でカバーしながら、彼は不満を口にした。

「何で、わざわざ城に、戻るんだ、よっ」

少々息が上がっているところは、御愛嬌。

「お前が食料を台無しにしたからだろうが。それに……」

相手はさして気にするわけでもなく、深い溜息をつきつつ微かに嘲笑した。

「あそこでまたお前に任せていたら、絶対何か仕出かしていただろうからな。骨を呼び寄せて襲われる以上のことを。

それよりは、城で落ち着いて食事する方がずっと良い」

「あ、あれはおれのせいじゃ、ないっ」

「言い切れるか?」

「う………」

恐い。視線がこわいっ

「オレだけの、せいじゃありません……」

「まぁどっちでも良い事だが」

「おいっ!人に言わせておいて、どっちでも良いは、無いだろっ!」

「……うるさいな」

誰のせいだと思ってんだっ!!

 

 

 

そうこう言い合う――もとい一人が一方的に騒ぐ内にも、着々と城への距離は縮まっている。

一方が諦めたのか、はたまたもう一方が流したのか。

どちらにせよ、やがて会話の内容は変わっていった。

 

「なぁ、昼飯食ったらすぐに行く?なぁなぁ」

早足で歩くことにも慣れてきたのか、期待に満ち満ちた表情で連れ合いに訊ねる。

一方聞かれた相手は。

まるで子供のような様子に不思議と口元を緩ませていた。

が。それを彼には気付かせまいとし平然と答える。

「さぁな」

当然彼は虚を突かれたような表情を見せる。

勿論、そうなることを予測した上でのことだったが。

「さっ、さぁなってなんだよ!?」

「分からない、と言った意味だが?」

「そういうことじゃなくてっ!」

自然と拳に力が入る。

「一緒に行くって言っただろ?オレは忘れてなんかないからな!!」

「私とて、別に忘れてなどいないのだがな」

忘れたいことほど忘れられないものだから、と言いかけて止める。

「何もすぐに行くとは言っていない。そもそも、ろくに準備もせずに旅になど出られるわけが無いだろう。

我々が国を空ける間、国政はどうする?最近は対外政策も考えねばならないし、軍備の調節も………」

「まぁまぁ、そういう難しいことはフォンクライスト卿に任せとけばいいじゃん!」

自信満々に言うな。

「………お前がここまで馬鹿じゃなければ、私はきっと苦労しなくて済むだろうにな………」

「なっ?!ば、馬鹿言うな!!」

「馬鹿を馬鹿といって何が悪…………あ」

「ごまかすな…………うわ」

 

いつの間にか城に着いていたらしいことはさて置き。

ある意味それ以上驚きのことが二人を待ち受けていた。

中庭を転がるように駆けて来る人物が、一人。

微かに――というか絶対に。自分達を呼んでいる。

因みに涙と鼻水垂れ流し。

 

「何かやな予か…………ぎゃー!」

「へいかっ、げいかぁー!!」

慌てて一歩後退したものの間に合わず。

一瞬の隙に襲わ………抱きつかれてしまう。

「って、何でお前だけ無事なんだよ?!」

「私はお前ほど馬鹿じゃない。危険回避ぐらい朝飯前だ」

何て奴だ。オレを犠牲にして自分だけ逃げるなんて!

それに、今は昼飯前だっ

「嗚呼、陛下、猊下……危険とはあんまりでございますっ!私は只お二人に逢えた感動で……」

だからってオレの服で鼻水を拭くな。

「いえそんなことより、どちらに言っておられたのです?お姿が見当たらないのでどれほど心配したことか……

このフォンクライスト、生きた心地がしませんでした。お二人の御身を案じて情けなく涙まで流す始末ですっ」

それはいつものことだろうが。(同時ツッコミ)

いや、それよりも。

「フォ、フォンクライストきょ……(暑)苦しいんだけどっ……」

「あ、しっ、失礼致しました!」

魔の熱烈ハグからようやく解放された。

「察知するのが遅いんだ、馬鹿」

「だから、馬鹿言うなっ!!」

たくっ!何でそんなに馬鹿馬鹿言うんだコイツは!?

…ううん、でもオレ負けない!だって、王様だもんっ!!(投げやり

「フォンクライスト卿!」

「はい、何でしょうか陛下」

「鰤!今すぐ鰤食わしてくれ!!勿論照り焼きで!!それ食って、オレはさっさと旅に出たいんだよ」

「旅……?」

「そう旅…………あ」

「………馬鹿………」

彼の溜息と同時に、王佐は涙腺を完璧に解放した。

一気に泣き崩れるかの人を呆然と見つめながら、失言者は一言呟く。

「………馬鹿、言うなー……」

涙目で言っても、特に効果は得られ無かった。

 

 

 

 

―――さて、どうしたものか。

拙い言葉で何とか宥める人と泣き崩れる人。

彼らから少し離れて、彼は一人考えた。

どうやって、あの異常なまでに過保護な王佐を説得する?

黙ったままならさして危険は無かった。恐らく。

完璧に準備を済ませてから、こっそりと抜け出すつもりだったのだ。

だが、言ってしまったとなると……少々困難になる。

あくまでも少々、だが。

折角、この旅も面白そうだと思えるようになったのだ。

こんなところで中断してしまってはつまらない。



……そんな事を考えている時点で、私もアレ(・・)と変わらないか。


彼は今日で一番の、深い深い溜息をついた。

 

 

一度決めたのだから、最後まで付き合おう。

馬鹿でも一応、アレは私の王なのだから――――





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