「いた…」
小さな、紅い、塊が指先に出来た。
血袋が膨らんで、其れから均衡を失ったように指に沿って流れ落ちる。
…そんなにひどい痛みではない。
ただ、書類の紙で少し切っただけだし、こんな傷、あっという間に塞がってしまうだろう。
其れこそ、一瞬の内に、だ。
――――――なのに、何故か物凄い痛みのように感じていた。
…どうして、こんなに痛いんだろう?
その痛みにとても切なくなって。
思わず瞳に涙が浮かぶ。
……理由はわかっているんだ。
あいつに会えないからだ。
あいつに会えない切なさとか、寂しさが、この痛みに相乗してるんだ。
そう、思ったけれど。
だからってどうにか出来るものでもない。
ヴォルフラムは、1つ、深い溜息をついた。
彼が、向こうの世界に戻ってしまってからもう1ヶ月という時が流れていた。
其の間に会いたい気持ちが、どんどん膨らんでいって。
胸が押し潰されそうな程に会いたくて。
紅い、血袋は、まるで其の思いが溢れてるみたいだ。
ただ、会いたいだけなのに、どうして会えないんだろう?
彼には2つの世界があって、ずっと此方側には居られないとわかっているけれど。
それでもこれでは会えなすぎではないだろうか?
そんな思いがどんどんどんどん膨らんでいく。
…会いたい。
ヴォルフラムの中には、それしかなくて。
今すぐにでも、ウルリーケに縋って、自分を彼の元へ連れて行ってくれと言ってしまいそうな自分の思いに、一生懸命ブレーキをかけている。
自分だけの部屋は暗くて、寂しくて。
自分がどれだけ、彼と同じ時間を過ごしていたかがよくわかった。
――――――この切なさを何と言うのだろう?
会いたくて会いたくて、自分はどうしたらいいのだろう?
流れ落ちた血もそのままに、ヴォルフラムはただ、自分の頬をぬらす感覚だけに思いをはせる。



そんな、時だった…。
「たっだいま〜っていうかおっじゃましま〜す」
暢気な声が、扉の方から聞こえた。
この声の持ち主を、ヴォルフラムはよく知っている。
この声の持ち主を。
「ヴォルフ?」
こつこつと聞き慣れた足音がして、ヴォルフラムが会いたくてたまらなかった彼、が。
「…ヴォルフ…?」
自分の顔を覗きこむ其れの端正さに。
自分の名を呼ぶその声の甘さに、ヴォルフラムは己を疑う。
あんまり会いたがってたから。
あんまり声を聞きたがってたから。
マボロシだろうか?
ホンモノ?
「…ユー、リ…?」
「うん。…どうした?悲しいこと、あった?」
「…ゆーり…」
触れようと、手を伸ばせばその手を取って頬にあててくれる。
――――――――あたたかい。
「…ホンモノだ…」
「当たり前だろ。…あ、ケガ!ダメじゃないかっ!!」
取った手に流れている血に、ヴォルフラムの傷を見つけ有利は眉をひそめた。
それから、そっと、傷口に唇をよせる。
「…まぁ、舐めときゃ治るだろ」
「…あ、ああ…。…それより、どうしたんだ…?」
何時だって何かしら、この眞魔国が彼を頼りたい時にしか、彼は此方へ導かれなかったから。
今回も、きっと何か用事があってのことだろうと思ったから。
それと、傷口を舐められた、という気恥ずかしさに、
泣いていた姿を見られた、という情けなさ。
ヴォルフラムは照れを隠すようにわざとぶっきらぼうに問うた。
本当は理由なんてどうでもいいのに。
「…ん〜…会いたかったから」
けれど、そんなヴォルフラムの仕草に有利は笑顔で答える。
まるですべてわかっている、というように。
「会いたくて、会いたくて、どうしようもないって思ったらこっち来てた」
それから、もう1度、ヴォルフラムの指先にキスを落として、抱きしめた。
そのあたたかさに、ヴォルフラムはクラクラ、目眩を覚える。
あんまり会いたいと願っていたから、その願いが叶って、すごく、興奮しているような、そんな感覚。
熱に浮かされてるみたい。
「…ぼく、も…会いたかった…」
素直に言葉にして見れば、それは案外、簡単な言葉。
其の言葉を聞いた有利が嬉しそうに笑って抱きしめる力を強める。
ヴォルフラムは其の力の強さに、少し息苦しく感じたけれど、でも、其の苦しさが嬉しくて。
「…ふふっ」
ああ、ヤバい。
何だかまた泣いてしまいそうだ。
ヴォルフラムはそう思って瞳を閉じた。きっと、その瞳に、彼の口接けが降るだろうと思いながら…。


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これも茶の間に描かれたものを図々しく頂戴してきました。

ここのサイトでは非常に珍しいユヴォル(単に私が着手していないだけ)!!
ヴォルフの可愛らしさが滲み出てると思いますと思います。
魅力が滲みでてますよね。
こんな風にキャラの魅力が出せないことが今の悩み…。
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