【逃避行】

血盟城のとある客室は、凍てつくような極寒のオーラで張り詰めていた

「グゥエンダル、ユーリを見ませんでした?(にっこり)」

「……(冷や汗)」

魔力をもたないはずのこの弟は、ときどきこのように並みの術者なら出会い頭に泡を吹いて卒倒してしまいそうな
凶悪な気をまとうことがある。(実際外には罪無き兵士が2人程倒れている)
人のよさそうな笑顔(でも目は笑ってない)からはブリザードのごとき冷酷な怒気が…いや、詩的表現はいい。

とにかく怒らせると恐いのだ、ウェラー卿は。

とりあえす必死に首をふる。(兄の威厳ナシ)
かかわらないに越したことはない。今朝方まで仕事に追われていたおかげでくたくたなのだ。
第一、あのやっかいなお子さま陛下は有難いことに(←といいつつ実はかなり残念なことに)昨日から見てはいない。

「そうか…見かけたら教えてくれ」

それだけいうと悪魔は、もとい、ウェラー卿は部屋を後にした。

「…なにをしたんだユーリは」

手のひらにじっとりとにじんだ冷や汗をぬぐうと、グウェンは睡眠不足で溜まりに溜まった疲れをとるべく、さっきまで
寝ていたベッドに潜りこむ。

すると……

モゾモゾ……。

「!(な、なんだ…!?)」

突然布団が盛り上がり、中からまさに今話題に上っていた人物がひょっこり顔をだした

「あー、恐かった。コンラッドはもういったよな、グウェン!」

「…何でおまえが私のベッドにいる…ユーリ(内心ドキドキ←いろんな意味で)」

「…グウェン、おれ…」

「…なんだ」

しばし見つめあう二人。

こぼれ落ちそうなつぶらな瞳(※グウェンビジョン)を一瞬戸惑うように彷徨わせたあと、おもむろに顔を上げると、
こちらの手をつかみ、こう言った。

「何も言わずにおれをつれて逃げてくれ!」

「断る」

「じゃあ捕まったら実は昨日の夜からグウェンのベッドに隠れてましたって正直にいってもいいのかっ!?」

「……逃げるぞ。(気づかなかった…)」




【数十分後。】


ここはとある城下街。

とりあえず学ランと軍服では目立ちすぎるということで、手ごろな店でお互いにお互いの衣裳をセレクト中。
(自分で選ぶとお互いからケチがついてキリがないので)


その結果…

●本日の陛下の衣裳→・大きなリボン付き付きハット☆
               ・やたらとファーが付いたいわゆるお姫さまコート☆
               ・同じくファー付きブーツ

●本日のフォンヴォルテール卿の衣裳→・アロハシャツ
                        ・スタジャン(極彩色)
                        ・サングラス(イカす←死語)
                        ・ジーンズ(ケミカルウォッシュ☆)
                        ・七色マフラー
                        ・ぼんぼり付きナイスなニット帽

『ちょとまてこれはないだろ!』 

更衣室のカーテンをほぼ同時にひいた上に、顔をあわせるやいなや見事にハモッてしまった。
お互いしっかり着込んでいるあたり、はたからみたらコスプレ好きのプチ変態なバカップル風。

「…私は少しでも露出が少ないほうがいいと…」

微妙に顔を赤らめつつ目をそらす。予想以上に実物はかわいかったらしい(←プチ変態)

「おれはその格好なら万が一知り合いに会っても黙って目を逸らして見なかったことにしてくれるんじゃないかなー、って。」

こちらはさり気なく酷いことをいっている。

ちなみに試着もこれでもう24回目だ。
店員の表情から、営業スマイルが、消えた。

「…お客様、そちらでお決まりですか…(ゴゴゴゴゴゴゴ…←押さえきれない怒気の波動)」

『…ハイ…』


 ※フォンヴォルテール卿:本日のお買い上げ→マニアックな衣装9点☆彡 (領収書は切ってもらったが多分経費は下りない) 



 【数分後】

田舎のチンピラもしくは都会の変質者といった近寄り難い服装の長身の男とお嬢様ルックの二人連れは
どこにいってもこの上なく目立っていた。

すでに二回ほど令嬢を連れ去る変質者に間違えられ職務質問を受けている。

フォンヴォルテール卿、顔にはでないがかなりヘコんでいた。
微妙に丸まった背中が痛々しい。

「グウェン、元気出せよ、あー、ほら、ある意味新しい感じがしておれはいいと…思…ぅ…。」 
そっと目が逸らされた。(←選んだのはあなたです)

「…まあいい(内心むせび泣き)、ユーリ、それで、結局おまえはなにをしたんだ…」 

「えっと、グレタがアニシナさん秘伝のレシピで作った強烈惚れ薬を試しにギュンターに飲ませたら
ちょうどそこにコンラッドが…」

「……」

なるほど大変だ

「ちなみにグレタは通りすがりのギーゼラに預けてきた。グレタには手ださないだろうしな」

「…おまえにだって手はださないだろう、あいつは」

「そういったらギーゼラがいつもの天使の微笑みを浮かべながら『手はださないと思いますが違う意味で手をだされかねません。
大事なものを失う前に、ここは私にまかせてひとまず逃げてください』って。」

「……(←なんとなく納得したらしい)」




【一方その頃。】

血盟城の廊下には鬼神と悪魔が静かに降臨していた…。

ゴゴゴゴゴ……

「…ほんとに、ユーリを見なかったかな?ギーゼラ」

ゴゴゴゴゴ……

「だから、みてません(にっこり)」

(ひいいいいい…!)

表面上は穏やかな2人なのに、何故か辺りはさながら地獄絵図となっている広い廊下で、フォンビーレフェルト卿
ヴォルフラムは震える腕で愛娘グレタを胸に抱えこみながら、ただひたすらに恐怖に耐えていた。

何故か唐突に割れた窓ガラス、風もないのに激しくはためき、とうとうちぎれて飛んでいったカーテン、のきなみ倒れて
しまった騎士の像。そして、泡を吹いたきり動かない、兵士の体……。

また一人、後ろで罪無き通りすがりのメイドが「ひっ…!」と短く声をあげるとその場に崩れ落ちた。

ゴゴゴゴゴゴ……

「…さっきキミとグレタとユーリが一緒に入るのを見たといってる兵士がいるんだけど」

パリーン!

今度はすでに倒れていた騎士の像が一つ、また一つと、砕け散っていく。

(ガクガクガクガク)

「知りません見てません。ずっと一緒にいたヴォルフラムなら、知ってますよ…ねえ?(にっこり)」

「…そうなのか?ヴォルフ…」

「ひっ…(こっちに話をふるな……!!)」

必死に首を縦に振りながら、娘だけは守らねばと、腕の中のグレタの体をしっかり抱えこむ。グレタはヴォルフの背中を
ぎゅっと握ると、小さくつぶやいた。

「ギーゼラ…やっぱりかっこいい…v」

…ユーリ、ぼくたちはひょっとしたら子育ての方向をちょっと間違えているかもしれない…。




【再び城下】

「…しかし、それならむしろギーゼラがいるうちに謝ったほうがいいのではないか?」

「たしかに…あんたならともかくギーゼラならなんとか収めてくれそうだよな…なんとなく。」

「……(また微妙に落ち込む長男)。……そうと決まればさっさと戻るぞ」

「えー、せっかく来たんだから遊んでいこうぜ。」

「おまえらがサボりにサボっているせいで私は寝てないんだっ!いいから帰るぞっ!こうなったらついでにこれまでサボった分、
仕事が片付くまでしばらく執務室に監禁させてもらうからな…」

「監禁!?ちょっとまて!ひっぱるなよ痛いってば!って、ううわっつ!?」

グイッ!

来た道を城に向かってUターンしようとするグウェンにつかまれていたユーリの腕が、突然すごい勢いで反対方向に
引っ張られた。
そのままくるりと反転する形で誰かの背にかばわれる。

「…坊ちゃん、大丈夫ですか?」

「ヨザックか?」

「オレがきたからにはもう大丈夫ですよ…おいアンタ、拉致って監禁しようだなんてこの方が誰だかわかってんのかい?」

威嚇するように腰の剣に手を添えながら、いつになく真剣な声でヨザックは目の前の相手にすごんだ。

そう、目の前のグウェンダル(ニット帽サングラス他オプション付き)に。


また間違えられた。

しかも部下に。

おまけにまだ気づかない…。

……。

…………。


「ああああああグウェン!なにもその場に乙女座りでくずおれるほど傷つかなくても!!」

「へ?グウェン?…て、閣下?」

あわてて駆けよったユーリに背中をなでられながら、うつむいて地面にのの字を書いている長身の男をまじまじと見つめる。

この明らかに変態丸出しのカッコの男が、あの、閣下…。

「…閣下…まさかそこまで追い詰められていたなんて…」

ヨザックの剣が手から落ちた。

何故か目頭を押さえながらあさっての方向を向いてうなだれている。

「ヨザック?」

「……いってください、陛下。いいんです、オレは何も見なかった…」

「…閣下が坊ちゃんに異常なまでにご執心なのは気づいてたけど……まさかここまで…ヘタレの閣下が…駆け落ちだなんて
…せいぜい隠れて変質者よろしく陛下に似せたあみぐるみ愛でるのが…ヘタレだし…でも坊ちゃんが合意の上なら…ブツブツ…」

「ヨザック…間違った方向に想像膨らませながら独り言いうのやめてくれ…ついでにグウェンがなんかさらに傷ついてるし」

「くっ!閣下、どうかそれなりに幸せに、チクショウ涙で前が見えねーや!」

ダダダダダダ…(走り去る音)

「ああああ、変な勘違いしたまま去らないでくれヨザックカムバーーーーーーッグ!!!!」





【数分間後】

「おれ帰ったら生まれ変わったように仕事するから、あ、それから終わったらグレタと3人で遊びに行こう!だからそろそろ
死んだ魚のような目をしながらうつむき加減でブツブツ独り言いうのやめてくれ」

「……ああ…大丈夫だ…。」

ちっとも大丈夫そうでない声で返事をすると、ユーリに半ばひっぱられながら城への道を逆戻り。

なんかもう、今日は厄日だ。というか私が何をしたというのだ…そうだ帰ったらうさちゃんと戯れながら静かに過ごそう…。

と、そこに…。

ゴゴゴゴゴゴ……。

「やっとみつけましたよ…陛下…。」

「「ひっ!」」

恐る恐る声のしたほうを振り返るとそこには…

修羅が、立っていた。

「コココココココココ……(がくがく)」

「はい、あなたのコンラッドです。(にっこり)」

完璧すぎて怖さ2割り増し☆な笑顔で彼は手にしたものを放り投げた。

ドサッ。

ヨザック(瀕死)だった…。

「彼は最期まで勇敢でしたよ…」

「「!!(ヨザックーーーー!!)」」

「さてと、陛下、陛下へのお仕置きは後の楽しみにとっておきたいので、ちょっと待っててくださいね☆(にっこり→ユーリ気絶)
というわけで、グウェンダル……。」

「ひっ!ななななななんだ…。(ガクガク)」

「俺に嘘をついた上に、俺のユーリをかどわかして連れ去ろうだなんて…しかもいかにも私好みvって感じの衣装まで着せて…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

「…瀕死と重体、どっちがいい?(にっこり)」

曇りない笑顔を貼り付けながら、音もなくにじり寄ってくる次弟…。

私にできることがあるとすれば、そう、祈ることだけだ…

…ああ、願わくばどうかユーリに被害が及びませんように…。


「グウェンのクセに生意気なーーー!!」
・
・
・
・
・
「うわああああああああああああ…!!!」

ガバッツ!

そこは、普段と何ら変わりない、見慣れた血盟城の客室だった。

なんだ、夢か…。

フォンヴォルテール卿グウェンダルは肩で息をつきながら長いため息をついた。

酷い夢だった。全身が汗でじっとり濡れている。
やはりここのところ働きすぎだろうか。こんな悪夢を見るなんて。
今日は一日ゆっくり休んで、明日ヴォルテール城に帰るとしよう。それがいい。

そう決意するとグウェンダルはさっぱり疲れのとれない体を気合で動かし、ベッドから出ようとシーツをめくった。

するとそこには…。

「なっ…!?」

何故か、おなじみ27代魔王陛下が、いつもの黒い服のまま、すぴすぴと眠っていた。

…まったく覚えていない。いつのまにもぐりこんだのか、いや、むしろ何ゆえもぐりこんだのか…。

…と、とりあえず起こさなくてはっ!

「おい、ユー…」

コンコン、コンコン…

「ひっ!」

突然のノックの音に、思わず声を上げてしまった。 
コンコン

   …グウェンダル…起きてるのか?

…コンラートの、声だ。

   グウェンダル…陛下を見なかったか?昨夜から探してるんだけど、みあたらないんだ…。

ユーリはいっこうに起きる気配もなく、相変わらず気持ちよさそうに眠っている…。

コンコン

   …グウェンダル?とりあえず開けるぞ。

まさか、まさか正夢……。

ギイ……。

ドアがゆっくりと、開いた。 



〜終わり!〜



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偽陛下のド素人修練場さんでキリ番6000を踏んで、頂きました☆
さすが会長…笑いのつぼを確実に押してきます(恐るべし)
コンラートが黒い (やはりサレナさん、いや、サレナ様。大好きです・こんなところで告白)

机叩きながら笑いまくってて家族に怪しまれた何処か可笑しい人です(笑)
あなたのって強調してる(ノ∇≦、)ノ彡☆バンバンッ!!

二人の格好想像しただけで笑ってしまうんですが…
その上で更に二人揃って歩かれたら…(笑い過ぎで倒れます。)
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